
婚活の「飼い殺し」とは何か:結婚相談所の契約を続けさせる心理と解約費用の上限
2026年8月6日
「あと少しで良いお相手が見つかりそうだから」と契約を延長し続け、気づけば当初の想定より大幅に費用がかさんでいた——婚活サービスの利用者から、こうした声を聞くことがあります。俗に「飼い殺し」と呼ばれる状態です。この記事では、なぜ「あと少し」という感覚に引っ張られて契約を続けてしまいやすいのかを行動経済学の観点から整理し、あわせて、中途解約時の費用の上限など、法律上どのような権利が消費者に認められているのかを解説します。
この記事のポイント
- 「ゴールに近づくほど頑張ってしまう」という心理現象は行動経済学の研究で確認されており、契約継続を促す構造と相性が良い
- 結婚相手紹介サービスは特定商取引法上の「特定継続的役務提供」に指定されており、契約後もクーリング・オフや中途解約が法律で保障されている
- 中途解約時に支払う金額には法令上の上限がある(結婚相手紹介サービスはサービス提供開始前3万円・開始後は2万円又は契約残額の20%のいずれか低い額+提供済みの役務の対価)
- 特定の事業者やサービスを一律に批判する話ではなく、契約する側が知っておくべき心理と制度の話
「あと少しで」に引っ張られる心理的な仕組み——ゴール勾配効果
結論から言うと、「もう少しで見つかりそう」という感覚に引っ張られて契約を続けてしまう背景には、行動経済学で確認されているゴール勾配効果と呼ばれる心理現象が関わっている可能性があります。
マーケティング研究者のラン・キベッツらは、コーヒーショップのスタンプカードなどを用いた実証実験を通じて、人はゴールに近づいていると感じるほど、そのゴールに向けた行動を加速させることを確認しました(Kivetz, Urminsky, & Zheng, 2006)。ゴールまでの距離が近いと感じられるほど、人は途中でやめることに抵抗を感じ、行動を続けやすくなるのです。
婚活サービスで「あと少しで良いご縁が見つかりそうです」という言葉を聞いたとき、受け手の側でこのゴール勾配効果が働き、「ここでやめるのはもったいない」と感じやすくなる構造があります。ゴールが実際にどれだけ近いのかを客観的に確認する手段がない中で、この感覚だけを根拠に契約を延長し続けると、当初の想定を大きく超える費用がかかってしまうことがあります。
婚活バーで聞いた、契約更新の悩み
筆者は東京・押上で婚活バーを運営していました。結婚相談所を並行して利用しているお客さまから、契約更新のタイミングで悩んでいるという話を聞いたことがあります。
SNSなどでも、「担当の方から『もう少しで良い方が見つかりそうです』と言われると、ここでやめるのはもったいない気がしてしまう」といった声を時折見かけます。この感覚自体は自然な心理反応であり、責められるものではありません。しかし、この感覚だけを根拠に契約を続けるかどうかを判断してしまうと、費用と成果のバランスを見失いやすくなります。
契約者が知っておきたい法律上の権利——クーリング・オフと中途解約の費用上限
契約を続けるかどうかを冷静に判断するために、知っておくべき制度があります。
契約金額が5万円を超え、契約期間が2ヶ月を超える結婚相手紹介サービスは、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に指定されています。この指定を受けるサービスには、消費者を保護するための次のような権利が法律で定められています。
| 権利 | 対象期間 | 費用の扱い(法令上の上限) |
|---|---|---|
| クーリング・オフ | 法定の契約書面を受け取った日から数えて8日以内 | 支払い義務なし。支払済みの金額も返還される(書面または電磁的記録により、理由を問わず無条件で解除できる) |
| 中途解約権 | クーリング・オフ期間の経過後〜契約期間中いつでも | 下記の上限額を超える違約金は請求されない(理由を問わず解約できる) |
| 損害賠償等の上限額 | 中途解約時 | サービス提供開始前=上限3万円/開始後=「2万円」または「契約残額の20%」のいずれか低い額(これに加えて、すでに提供された役務の対価は別途) |
これらの権利は、事業者の方針にかかわらず、法律によって保障されているものです。「もう契約してしまったから、途中でやめられない」というのは誤解であることを、知っておく価値があります。
なお、これから入会を検討している段階の方は、契約前の見極め方——不安を煽る売り方のサインや高額費用の中身——を結婚相談所は「コンプレックス商法」なのかで解説しています。
契約継続を判断するための3つの視点
1. 「あと少し」という感覚と「客観的な根拠」を切り分ける
「もう少しで見つかりそう」という言葉は、ゴール勾配効果を刺激する表現でもあります。実際の進捗を示す客観的な材料(紹介人数・お見合いの実績など)と、感覚的な言葉を切り分けて判断してください。数字の読み方は結婚相談所の成婚率はなぜ会社ごとに違うのかも参考になります。
2. 費用と得られた成果を定期的に棚卸しする
契約から一定期間が経過したら、これまでにかかった費用と得られた成果を一度整理してみてください。感覚だけで継続を判断しない仕組みを、自分の中に作ることが大切です。
3. 「いつでも中途解約できる」という前提に立ち返る
中途解約は法律で認められた権利です。契約を続けるか見直すかで迷ったときは、いつでも解約できるという前提のもとで、冷静に判断してみてください。
まとめ
婚活サービスの契約を延長し続けてしまう背景には、ゴールに近づいていると感じるほど行動をやめにくくなるという、行動経済学で確認されている心理的な傾向が関わっている可能性があります。同時に、結婚相手紹介サービスの利用者には、クーリング・オフや中途解約権など、特定商取引法によって保障された権利があります。「あと少し」という感覚だけに頼らず、客観的な根拠と法律上の権利を踏まえて、契約継続を判断することが大切です。確認できる事実を土台に選ぶという考え方について詳しくは、なぜ婚活に「信頼のエビデンス」が必要なのかをご覧ください。契約や数字に縛られず、納得したうえで活動できる環境があってこそ、その人本来の魅力は相手に伝わります。なお、本記事で取り上げた結婚相談所と、筆者が開発中のm.o.T.e(婚活イベントのプラットフォーム)は業態が異なります。
よくある質問
契約期間の途中で解約すると、高額な違約金を払わなければいけませんか?
契約金額5万円超・期間2ヶ月超の結婚相手紹介サービス(特定商取引法の対象契約)であれば、中途解約時に事業者が請求できる損害賠償額には法令上の上限が定められています。サービス提供開始前の解約は上限3万円、開始後は「2万円」または「契約残額の20%」のいずれか低い額(これに加えて、すでに提供された役務の対価)が上限です。これを超える金額を請求されている場合は、消費者ホットライン「188」(最寄りの消費生活センターにつながります)に相談することをおすすめします。
クーリング・オフの期間を過ぎたら、もう解約できませんか?
いいえ、できます。クーリング・オフの期間(法定の契約書面を受け取った日から8日以内)を過ぎても、契約期間中であればいつでも中途解約が可能です。理由を問われることもありません。
「もう少しで見つかりそう」と言われたら、信じてはいけませんか?
必ずしも不誠実な発言とは限りません。ただし、その言葉だけを根拠に契約を続けるかどうかを決めるのではなく、客観的な進捗の材料と合わせて判断することをおすすめします。
参考文献
- Kivetz, R., Urminsky, O., & Zheng, Y. (2006). The goal-gradient hypothesis resurrected: Purchase acceleration, illusionary goal progress, and customer retention. Journal of Marketing Research, 43(1), 39–58.
- 消費者庁 特定商取引法ガイド「特定継続的役務提供」(2026年8月閲覧)
著者:押上婚活バーの元店長
2023年12月〜2025年、東京・押上で婚活BARを週末運営。毎回30〜40人規模(多い日は50人)のイベントを1人で企画・運営。婚活疲れの実態を間近で見てきた経験から、m.o.T.eを開発中。
現在、会う前から、その人らしさや魅力が伝わる婚活プラットフォーム「m.o.T.e」を準備中です。独身証明・行動の積み重ねが可視化される、外見だけでない婚活を目指しています。
m.o.T.eでは、「こんな婚活イベントがあったら行きたい」というアイデアを匿名・無料で投稿・賛同できるリクエストボードを公開しています。共感が集まった提案は、m.o.T.eが主催希望者と一緒に実際の開催を目指します。